違う生き方を始めなければ、いけないのですか?
プ ー ル 開 き 前 夜 (1)
「今日の体育、プール掃除だってよ」
「マジ?うちのクラス、クジ運悪すぎ」
みんなが嫌がるのもそのはず。
1年間ほったらかしだったプールは、液体っていうか、苔っていうか。
顕微鏡を持って来て覗いたら、2度と近寄りたくなくなるような場所と化していた。
「うっわ、緑だし。魚とかいんじゃね?」
「さかなー」
がしがしと、水を抜いている最中のプールを掻き混ぜる者とか。
日焼け止めを懸命に塗りたくる女子とか(そういうのは他でやって欲しい)
「卓ー!みてみてコレ」
そんな女子とはまったく正反対にデッキブラシでトイレットペーパーだったらしきものを釣り上げる奴とか。
そっちの方が確かに健全だろうけど、いや、そういうやつの方が実は男に人気あったりするんだけど。
それが気にくわなかったりする。
「宮浦ってさ、なんか変わってるけどよくね?」
そんなこと言われてるなんて、本人きっと分かってないけど。
くしゃくしゃにして日陰に脱がれた靴下とか、なんかもう。
なんか、なんだか分からない。
「なあ、藤沢って宮浦と長いんだろ?」
「え?んー、まあねー」
軽く流す。
そういうことは何回かあったけど、なんか面白くない。
要とは小学校が一緒で、その頃から良く遊んでて。
未だに昼を要と一緒に食べてたりする。
無論、友達として。なにより夏目も一緒だし。
「いいよなー」
何が?俺が?要が?
「んなことないよ。けっこう人使い荒いし要って」
「なんだ、結局仲いいんじゃん」
「あー、仲いいよ」
なんか自棄だったと思う。
「そこ!サボるな!!」
まずい、と口にして、体育教師が運んできたホースをひったくるとプールの壁に水を叩きつけた。
急に手の中に生まれた動きは、なんだかもがく俺みたいだ。
「ギャー!どこかけてんだよ!!」
「何なの藤沢ー!サイアク!」
「ギャハハハ!独裁者藤沢卓様を拝みたまえー」
馬鹿か、とか言われながら怪しい物体とかが蔓延ったプールとか、その周りのクラスメイトとかに水をかける。
女子とか、かけるつもりはなかったけど「無意識に」かけてたらしくてさんざん文句を言われた。
男の話とかしてたし。(けど決してわざとじゃ・・・!)
子供かお前は、とか言われたけど、子供ってなんだろう。
「卓貸してーそれ面白そう」
後ろをみたら、要がいた。
それから・・・夏目も。
なんか3人で一緒にいることが今年から多くなったなと思ったら、2対1が最近多くなって来た気がする。
「きゃああ、何なの一緒に振り向かないでよ!」
「うあ、ごめん!」
気を取られてるうちにホースを持ったまま振り返っていたらしく、二人はプールに突き落とされたみたいに濡れていた。
なんか要は激怒してるし、夏目は夏目で、無言の圧力だし。
「ご、ごめん!」
「いいよ。次は昼休みだし、あーあ、こういう仕事って喉が乾くんだよね」
「マジ?卓のおごり?やっさしー」
「卓は優しいなあ」
「・・・・・・もちろんです。おごらせてください(涙)」
こいつら、鬼だ。
ヘドロみたいな色の水がだいぶ排水口に流れていくと、「よーし、デッキブラシ持ってプールに入れ!」という号令。
手に手に硬いブラシを持って、曝し慣れない素足で、まだぬめるプールにみんなが降りていく。
俺は要と友達だ。しかもかなり。
友達だけど、けど。
どうしてジャージに着替えにプールサイドの日陰に歩く踝とか
その横に(当然ながら)夏目がいることとか
なんか無意識に拳を握ってみたくなる。
(もちろんそんなことしたらクラス中にジュースを配る羽目になるだろうけど)
小学校から仲がよかった奴なら他にも何人かいる。
けど女子は要だけだ。
他の奴らとはあの頃と同じように(話す内容が青少年するようになってきたけど)馬鹿やってて。
けど要は女なんだ。だからどうしたとか言われても困るけど女なんだ。
調子に乗って水かけたことだって、その瞬間クラスの男どもの視線が集中してたのを知ってるし
そこに先生が慌ててきてたジャージかけて着替えて来いとか言ったのも、女子だからで。
多分水かぶったのが夏目だけだったら笑っておしまいだったし。
なにより夏服になりたてでちょっと肌色が透けそうなブラウスに、はっきりとブラの色とか形とか浮き上がってたし。
ああマジ、そういうの見せたくないって思うのは、友達としてはどうなんだろ。
健全なる男子中学生としては、友達とはいえ女なのでしょうか神様。
ていうか、夏目はどうなんだろ。
いや多分、確実にあれは狙ってるだろ。
・・・だからなんで拳握りたくなるんだろ。
「バカ卓!!なにやってんだよ!」
「きゃあああ!」
そういえばあいつ、いつから悲鳴で「きゃー」とか言うようになったんだろ。
(・・・あつい。)
(とても、あつい。)
つづきます。
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