青白い顔をして横たわる君がいた。
私はだけど、何も出来ず、ただ、ただ。
湿気を帯びた空気が湿らせるから、制服の裾が引かれる。
私 だ け が 知 っ て る
いつもなら眉を歪めて笑ったり怒ったり、とにかく感情表現がオーバーなこの顔から、完全に力が抜けていた。
それは思っていたよりも静かで、なんだかお面みたいだと思った。
生理痛が酷いと言って保健室に駆け込むことは日常茶飯事で、だからよく会う「病弱な」後輩や、私と同じ匂いのする先輩(つまり巧くここを使っているということだ)と、今日もしばらく話をしようと思って来てみたのだが、生憎今日はみんな真面目に授業を受けているようだった。
しんと静かな教室には、主である先生さえいなかった。
今回は本当に鎮痛剤目当てに来ただけに、勘弁してよと呟く。
その言葉が静かなはずの保健室のどこかで、跳ね返ることなく吸い込まれた気がして、私はふと誰もいないはずのベッド(だってカーテン全開だし)を覗き込んで、息をするのを1秒くらい忘れた。
訂正する。
保健室で有意義な時間を過ごしている私の仲間は今日はいなかった。
ただ、1人を除いて。
かけらもそんな期待なんてしたことがなかった。
彼は隣の隣のクラスの人だと、思う。多分。それだけの知り合い。
けど先々月の文化祭で彼らのクラスがやった寸劇で、彼が演じた探偵が、要するに、かっこよかったのだ。
決して万能ではないけど周りを巻き込んで解決に持っていくというのがストーリーで、だから役柄はどちらかといえば笑いどころを担当する人みたいだった。
でも、そのときの笑顔に、ヤラれたのだ。
ただそれだけだったし、私にはまあ、ちゃんと彼氏だっていたから、別にどうということもなかった。
でも自販機前の廊下でふざけてるあの煩い人たちの中の1人が彼だと分かってから、私は休み時間にジュースを買いにいく回数が増えた。
私にはただそれだけだった。
なのに。
今目の前には。
いい感じに曲線を描く眉。
人が目を閉じてる所なんて、実はそんなに見る機会がないんだと、彼の閉じた目を見ながらぼんやりと思った。
そしてその貴重な対象が彼であることを、ぼんやりと考えていた。
なんだか青白い顔が、お面みたいだと思った。
それがとても怖かった。
そしてとても愛しくなった。
けれどそれだけだった。
私はひとつ呼吸を置くと、風通しのいい場所を求めて立ち去ることにした。
きっと私だけが知っている。
彼は私のことなど、知るはずもないのだから。
目が覚めて、きっと彼は言うんだ。
「誰」
それを聞きたくなくて、私は出来る限り音を立てずに扉を閉めた。
(12/20/2003)
ものすごくひさびさの更新。けどこれは小説っていうか、景色だな。。
ブラウザバックで戻ってね。
|